「ねぇ、もういいでしょ…?」
「初日だからいいよ。頑張ったじゃん」
頭を撫でてやれば、嬉しそうに笑う。
「いつ退院できる?」
「あと2日か3日」
「…結、大丈夫かな?」
「大丈夫、俺も仕事終わったらすぐに迎えに行ってるから」
「迷惑かけてごめんね…?」
「迷惑なんかじゃないよ」
虫垂炎の痛みだって、もっと前から出ていたものだと思う。
それも我慢して何日も過ごしていたのだから、陽には負担をかけた。
「明日は来られるかわからない」
「…わかった」
「ご飯、ちゃんと食べてね」
「…できたら、ね?」
「いい報告待ってるから」
強く抱きしめることはできないけれど、そっと体を包んでやることはできる。
「じゃ、また来るね」
「…港?」
「なに?」
「仕事忙しいのに来てくれて…ありがとう」
体を離して顔を覗き込むと、恥ずかしそうに頬をピンクに染めてしまった。
「またね」
2回頭をポンポンしてその場を離れようとしたら、
「待って…ッ!?」
焦ったような声で引き止められた。
「最後にもう一回…ダメ?」
控えめに広げられた両手。
そんな風にされたら、この部屋を出られなくなる。
わかっていても、その両手に誘われる。
強引に抱きしめたくても、傷口のことは頭のどこかにある訳で。
ゆっくり、そっと、少し離して。
柔らかく抱きしめる。
どうせまた会いに来るけれど。
陽にああやって言われたら、
抱きしめずにはいられない。
陽が手を離すまで待ってやり、手が離れてから体を離す。
「時間取ってくれてありがと…」
そう言う陽に頷き、扉を開けて部屋を出た。