「陽」


「…らない、あっちに持っていっていいよ」


「一口も食べてないよ」


「…いいの」






絶食後初の食事だというのに、温かいお粥が冷えきるまで手をつけていなかった。




「ちょっとずつ食べる練習しないと。ちゃんとしたご飯も再開できないよ?」



「水みたいなお粥なんて食べられない…」



「そんな事言わない」







胃に負担を掛けないようにと考えられた優しいお粥なのに、スプーンでかき混ぜるだけで食べようとしない。






「ずーっと点滴で栄養取る?」



「それは嫌だよ」



「じゃあ食べなきゃ」



「わかってるけど…」







「俺だってずっといられる訳じゃないよ?」


「知ってるよ!」





「陽の体心配してるの」


「ありがと…、でも食べたくない」






「はー、まったく」





スプーンで器の中をかき混ぜて、一口分をすくう。



「あーん」


「…。」







拒んでも無駄だと分かったのか、素直に口を小さく開けた。



「味がない…。」





眉を寄せて不満そうな表情を浮かべる陽が、器を覗いてため息を吐く。






「ほら、次」


スプーンでもう一度口元まで運んでやれば、拒むことなく口を開けた。






「あぁ、食べさせて欲しくて食べてなかったの?」


「そんな訳ないでしょ…ッ」




声を張り上げて傷が痛んだのか、顔をしかめて口を結んだ。




「あんまり大声出すなよ…」


「だって港がそんなこと言うから…」








ぼそぼそ不満を言いながらも目を離さないところは、やっぱり陽らしくて好き。





「上目遣いしたって甘やかさないよ」


「してないもん」