「おはよー」
両手に荷物を抱えて病室へ入ってきた港は、目が合うとにっこりと微笑んだ。
「体調はどう?」
「…最悪」
「はは、何だって?」
困ったように笑う港が、荷物を下ろして側に椅子を寄せる。
「手術怖かった?」
「怖かったよ!…突然手術なんて言われて」
「でも先生が陽のこと褒めてくれたよ」
「怖さより痛みの方が強かったもん…」
昨日の夜激痛に耐え切れず病院へ行くことになったが、正直軽く胃薬でも出されて帰宅になると思っていた。
けれど痛みに耐えているうちに本格的な検査も始まり、突然手術が決まって恐怖で胸がいっぱいだった。
体験したことのない痛みと、突然の緊急手術。
見知らぬ看護師に励まされる中、聞こえていた微かな港の声。
次に記憶が戻った時には、病室のベッドの上。
あの激痛はもうないが、術後の痛みはまだ抜けない。
「頑張ったね、本当に怖かったと思うよ」
なんて言いながら、港は髪を撫でてくれる。
その温もりが 大好き。
「季蛍さんがすごく心配してたよ。そのうち顔見せるって」
「季蛍ちゃんの前で元気でいられる自信ないから…今は呼ばないで?」
「わかってる、術後だしゆっくり休んでて」
『着替え持ってきたからね』
港の指さす先には、抱えてきていた荷物があった。
「少し絶食になると思うけど…」
「"食べろ"って言われるよりよっぽどまし…」
「さぁ、どうだか」
苦笑いを浮かべる港が、私の額に手のひらを乗せる。
「つらかったのに気づいてやれなくてごめん」
「…謝んないで」
港の温もりを肌で感じる度、泣きそうになってしまう。
「担当の先生はどう?」
「…うん、優しい」
「良かった。時間空いたらちょこちょこ来るから」