「夕飯2人で作るのいつぶりだろうね」
「覚えてないくらい。一緒に食べるのも久しぶりだもん」
「…ごめん」
「港に謝って欲しくて言ったわけじゃな~い!」
ふんわり笑う陽の笑顔が好き。
この笑顔を見るためなら、一緒の時間が少なくたって頑張れる。
ちゃんとした休みがずっと先でも頑張れる。
それくらい陽の笑顔が好きだ。
「んふ、見すぎ」
少し照れた陽の表情は、すぐ側まで来ていた店の明かりではっきりわかる。
「港が荷物持つ~?」
聞かなくてもどっちにしろ持つのは俺だろ…なんて思いつつ、楽しそうな陽を眺めているのも好きだ。
「…あっ、」
店に入る一歩手前、陽は繋いでいた手をパッと離して立ち止まった。
陽の視線の先には、微笑む蒼の姿があった。
「仲良く買い物~?」
耳を赤くして突っ立っている陽は、ぎこちない笑顔を浮かべて固まっている。
「珍しく定時で帰れたから」
蒼はその言葉に頷くと、陽に目を移して笑う。
「別に離さなくてもいいのに」
蒼がさっきまで繋いでいた手を指さすと、陽はもっと耳を赤くする。
「だって恥ずかしいです…っ」
蒼に手を繋いでいるところを見られたくらいで、"今更"としか言いようがないが。
「ごめんね、あまりにもすぐに離したから」
蒼も陽の赤面っぷりには苦笑い。
「…季蛍さんはどう?」
蒼の手には夕飯の買い出しだと思われる袋とは別に、見覚えのある紙袋。
それを見ただけで状況がわかる俺も、相当やばい。
「熱は下がったから心配ないかな」
…なんて言う蒼だけど、その"マフィン"の紙袋を持っているのには理由があるんでしょ?
って、そこまで考える自分も怖い。