「…はい、背中」
聴診中の季蛍が呼吸をする度、背を向けていても何とか聞き取れる程ヒューヒューと音が聞こえる。
「喉も見せて………ん、はい。おっけー」
診察が手際良く進むのを聞いていると、季蛍の扱いに慣れた高島に頼めてよかったと思う。
抵抗しないよう監視する必要も無い。
そのおかげで順調に作業も進む。
「それ何?その手。嫌なの?」
「…待ってください」
「もっと嫌になるだけでしょ」
「…心の準備ッ」
「はいはい、わかった」
「ちょ、せんせ…ッ」
「動かない。体押さえられるの嫌だろ?」
「…。」
「はい、そのまま。」
「…いたい、」
「…まだやってない」
インフルエンザの検査くらい大人しく受けろよ…
なんて思うけど、もう高島も慣れたもんだ。
このやり取りも背後で聞いていても、高島には任せられるおかげで俺の出番はない。
「おわり。痛くないだろ?」
「…痛いもん」
「泣いてない」
「泣かないです」
「珍しい」
振り返れば季蛍は不満そうな表情で、結果を出しに奥へと行った高島を見ていた。