「気分悪いの我慢してまで携帯の番号聞きたかったんですね、彼」
1日の外来を終えて診察室の片付けを進めていたら、思い出したように看護師が言った。
「ね、教えるわけないのに」
なんて言いつつ、彼は律儀な人だった。
「季蛍先生は年々綺麗になるから不思議です」
「…そんな事言っても何も出ないよ?」
「ふふ、本音です」
「まさか。どんどん弱くなるだけ」
看護師はそんな私の言葉に首を振った。
「季蛍先生とこうしてお仕事できるのが嬉しいんです」
ちょっと大袈裟に言ってくれたのかもしれない。
なのにその言葉は胸に響いて、書いていた書類の手を止めた。
「そんな事言われたらじーんとくるよ~」
「やだ、季蛍先生泣かないでくださいよ~」
じーんときただけじゃなくて、堪えられなかった涙。
一粒零れただけなのに、看護師は"ごめんなさい"なんて謝りながら駆け寄ってきてくれる。
「だって本当なんですもん」
優しさに胸がじーんとする。
なぜか涙が出てきてしまう。
「ありがとう、本当に」
「とんでもない」