__「季ー蛍さん?」
声に驚いて後ろを振り返ると、白衣を着た港くんがいた。
「ごめん、驚かせた?」
「ふふ、すみません」
いつも忙しそうにしている港くんがどうしてここに?
そんな私の疑問を読み取ったように、港くんは隣に腰を下ろして言った。
「休憩もらえた。なんだか暇だから」
あんなに忙しそうにしていれば、やりたいことだって一つや二つあるはずなのに。
缶コーヒーを飲み始めた港くんを見つめていたら、不思議そうに笑われた。
「季蛍さんここで何してんの?」
「…私も休憩、みたいな」
「んー、…中庭の隅っこの階段で?」
「…はい。」
「怪しいなあ」
「別に何も無いですよ」
「そうかな?」
「はい」
「なら人目につかないところで休憩しないって」
「…港くんだって来てるじゃないですか」
「はは、まぁね」
「なんかあった?」
「いや、なんにも」
「蒼とでも喧嘩した?」
そう言って笑う港くんは、私の心に探りを入れている。
「まさか。だとしても仕事場で拗ねないです!」
「んふふ。だよね」
「…逆に港くんは何でここにいるんですか?」
「影が見えたから。誰がいるんだろうって」
「…。」
「昼食べないのかなーって」
「…もう食べたんです」
「本当?」
「…はい」
「はは、」
"嘘なんでしょ?"
口には出していないのに、港くんの顔を見ただけでそう言われているような気がした。