「はーる」
扉から顔を覗かせる港は、今朝とは違って真っ黒なスーツ姿。
私が起きていることに気がつくと、港は部屋の電気をつけた。
「ただいま」
『おかえり』
そう声を出そうとしても、上手く声が出なくて。
ベッドのすぐ側に椅子を寄せて腰を下ろした港は、手の甲を首筋に当てて苦笑いを浮かべる。
「何か食べれそう?」
「…無理かも」
絞り出した声を聞いた港は、「そっか」と優しく微笑んでくれる。
「お粥作ってこようかな。…リビング来る?」
「…無理かも……」
「はは、だーいぶ弱ってんな?」
笑って声を掛けてくれる港だけど、その目は仕事の時の目をしている。
本気で心配してくれていることがよくわかるけど、逆に申し訳ない気持ちになることも確か。
「じゃあ寝ててね」
「…ごめん」
「謝るなよ…、最近体調悪いのは知ってた」
季蛍ちゃんに会ったあの日から、仕事が忙しくても連絡をくれていた。
常に気にかけてくれていることは本当に申し訳ないけれど、やっぱりちょっと 嬉しい気持ちもある。
「港…ありがとう」
「んふ、いーの」
髪を一度撫でてくれた港は、そのまま部屋の電気を消して出て行った。