季蛍が話す間も酷い咳は我慢できないようで、小さな体全身で呼吸をしながら 季蛍の話を聞いていた。




「酷い咳だな…」




聞いていた奏太もぼそりと呟いて、夏来のことをじっと見つめている。




「ここにこうやって当てるだけ。痛くないよ」





季蛍が優しく説明してやると、ひょっこりと顔だけは出てきた。





「夏来くんそれ何持ってるの?」


「可愛いね」


看護師さんまで可愛い と指をさしてくれたぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた夏来に、奏太も優しく笑いかける。





「先生にも見せて?」




奏太が軽く手招きすると、季蛍の背後から出てきてぬいぐるみを両手で渡している。





「この子ぎゅーってしたままだったら

胸の音 先生に聴かせてくれる?」




「…いや。」




「ふふ、そっか。蒼 夏来くんのこと抱えてもらってもいい?」



「あぁ、うん」






季蛍の背後から顔を出す夏来を抱えようと手を伸ばすと、拒否することなく自分から飛び込んできた。





「先に背中の音 聴くからねー?」




奏太が優しく声を掛けて説明すると、ぎゅっと体にしがみついてきた。




「こわい…」




胸にグリグリ顔を押し付けてくる夏来の服を捲って、体を少し押さえてやる。




「ごめんね、ちょっと冷たいかも」



聴診器を手で温めてくれる奏太は、一度背中に手を添えてからそっと聴診器を当てた。





数カ所に当てて音を聴いていた奏太が、さり気なく夏来の首元に手を当てる。




「後ろはいいよ。もう怖くないでしょ?」



「…こわい」



「んふふ。次前聴こっかな」




無理矢理体を剥がそうとするけど、がっちりくっついていてなかなか離れない。



「今度こっち聴くってよ?」



「…イヤ」







手の力が緩んだところで体を前にしてやると、目の前にいた奏太から顔を背けてしまった。



「俺のことは見たくもない…か?」



なんて言いながら笑っている奏太は、慣れた手つきで服を上まで上げる。







「もう怖くな~い。ね?」



夏来のペースに巻き込まれない奏太が服の中に手を入れて、あっという間に胸の音を聴いてくれた。





「オッケー、偉かったね」



診察室に入って5分もしないうちに、頭を撫でてもらえた夏来の顔には笑顔が浮かんでいた。