「蒼そろそろ行かなきゃ…」
「そうだな。じゃあ夏来、先生にバイバイして?」
「…なんで?」
「お仕事戻るって。また会おうねって」
「……バイバイ、」
小さく手を振った夏来に、高島先生も振り返してくれた。
「時間取らせて悪かったな」
「いえ、全然。がんばってね」
いまいち状況を把握していない夏来に高島先生が声を掛けると、嬉しそうに笑っていた。
高島先生と別れた後、蒼はがっちり夏来と手を繋いでエレベーターの方へ歩いていく。
「あれ乗る~?」
「乗るよ、下降りるから」
蒼の手を引っ張っていく夏来は、多分これから行く場所がまだ想像できないんだろう。
「パパお仕事は?」
「もうおしまい。今日は3人で帰ろうな」
「ほんと?」
「ほんと」
キャッキャッ喜ぶ夏来のことを、蒼もなんとも言えない顔で眺めている。
蒼が思ってることは、きっと私も同じだから。
外来の診察室の前を何個か通り過ぎているうちに、雰囲気を感じ取ったのか、「帰ろ?」と腕を引っ張って言うようになった。
「夏来、ちょっとだけがんばろうね?」
逃げないように体を抱き抱えてしまった蒼が夏来にそう言うと、「なに?」と怯えた顔で蒼の服をぎゅっと握っている。
「ここにもしもーしってするだけ」
蒼が手のひらで優しく夏来の胸に触れるけど、夏来はそれさえも手を払って嫌がった。
「行かない…」