耳に残る嫌な咳が聞こえて、ウトウトしていた私もハッと顔を上げた。
最近あまり眠る時間がないせいか、パソコンの前で眠りそうになっていたようだ。
時計を確認すると、約束の時間まであと1時間。
パソコンを閉じて席を立つと、嫌な咳はすぐ側で聞こえた。
「夏来、そろそろ行くよ」
ソファの上で絵本を読んでいた夏来に声を掛けると、絵本を閉じて顔を上げた。
「どこに?」
「病院だよ、昨日話したでしょ?」
目を泳がせていた夏来も思い出したようで、顔を曇らせて首を振る。
「行かない、おうちで待ってる」
「待ってる…って、夏来が診てもらわなきゃ。」
「ううん、イヤ」
首を左右に何度も振りながら、また絵本を開いてそっぽを向いてしまった。
「パパに会えるのに?」
「…え?」
「パパに会うんじゃないの?」
「病院にパパいるの?」
「いるよ。夏来も会いたいんじゃなかったっけ?」
「行く!」
さっきのイヤイヤは一瞬でどこへ?
私が用意した靴下も一生懸命自分で履いて、玄関へ走って行ってしまった。
「ッゲホ、ゲホ……ッ」
ぬいぐるみをぎゅっと抱えて咳を続ける夏来も、早く家を出たくて仕方がない様子だった。