しばらく季蛍と喋っていた陽さんは、途中から口を開かなくなった。
季蛍が何とか話しかけても、無理した笑顔を浮かべて相槌を打ったり首を傾げるだけ。
その様子を気にかけていた港が何かに気づいたようで、陽さんに身を寄せて顔色を伺う。
「陽」
小さく名前を呼んだ港は、俯き加減の陽さんに耳を寄せた。
「ん?」
聞こえないが何かを呟く陽さんは、少し顔を上げて港に返事を返す。
「…ちょっと席立てる?」
港が立ち上がって陽さんの袖を軽く引っ張っるけど、陽さんはそれを拒否するように首を横に振った。
「外の空気吸うだけ」
「いい。」
「…悪い、荷物見ててもらってもいい?」
陽さんの服を軽く引っ張りながら、苦笑いを浮かべる港に首を縦に振る。
「いいよ、見てる」
港が申し訳なさそうに表情を歪めてから、陽さんの腕を軽く掴んで立つように促した。
「1回店出よう」
港に引っ張られて立ち上がる陽さんの顔色が、一瞬にして血の気が引いていくのがわかった。
立ち上がったその場でフラつく陽さんを、港がやんわり受け止めて肩を抱いた。
「歩ける?」
港が小さな声で聞くと、陽さんは声を震わせて「無理かも」と呟いた。
一度その場に座った陽さんが発した声は、微かに震えていた。
「ごめんなさい…」
「気にしないで…」
季蛍も気にかけて声を掛けるけど、陽さんは余計俯いて片手で顔を覆う。
港が手探りでカバンから小さな袋を取り出すと、陽さんの背中に手を当ててまた声を掛けた。
「陽、ちょっと頑張って?」
港の声に2回ほど頷いた陽さんの肩に手を回してゆっくり立ち上がると、港は陽さんを支えるようにして店を出て行った。
「…貧血?大丈夫かな…?」
季蛍も不安そうに声を漏らして、向かい側のコーヒーカップをじっと見つめていた。


