「いただきます」
久しぶりに口にする陽の手料理。
箸で簡単に崩れるほどふわふわの卵焼きも、甘くて優しい味がする。
「陽、美味しい」
「ほんと?」
不安そうだった表情もすぐに嬉しそうな表情になって、安心したようにまたにっこりと笑った。
「よかった」
「…陽も食べな?」
「うん、食べる」
ずっと俺の手元を眺めていた陽だけど、自分から箸を持つ気配はない。
「季蛍さんとなら食べられる?」
「…んー」
「ん?昨日の夜は"食べられる"ってあれだけ言ってたのに」
「…あんまり食べたくない、だけ…」
小さな声でボソボソ呟いた陽は、一瞬考えた表情をしてから
「せっかく楽しみにしてた時間なのに…嫌な話しないで」
と言って、不満そうな顔をした。
「聞いただけだろ」
髪を撫でてやれば、嫌な顔もすぐに綻んで
「んふふ、ごめん」
と言ってまた、ふわふわの笑顔で笑った。