訳あってうちでお預かり中の陽さんが、リビングに顔を出した。


別の部屋で寝ていたはずだが、目が覚めたようだ。




「あの…」


「あ、季蛍呼ぼうか?」


「いえ…、港から連絡とかってありましたか?」


「まだないかな。そろそろ帰るとは思うんだけど」


「そうですか…」


「良かったら座って」





リビングでの会話に気がついたのか、キッチンでお茶を入れていた季蛍が顔を覗かせる。



「あ、陽さん」



隣に寄ると、縮こまった体を優しくさすり始めた。



「大丈夫ですか?体調は」


「大丈夫…」


「苦しかったりしないですか?」



小さな声で問う季蛍に、陽さんは微かに首を横に振る。



「ううん、大丈夫…」


「…寒いですか?顔色が悪いような」



『暖房入れますね』と季蛍が立ち上がったところで、陽さんがゆっくり目を閉じる。



「大丈夫…ッ」



深い呼吸と共に聞こえた言葉。


揺らぐ上半身。


座っているのが辛かったのか、体が半分に折りたたまれる。



「薬準備する」


「ん、お願い…」



体を包むように擦りながら、季蛍が優しく声を掛け続ける。



「陽さん、大丈夫です。私も蒼もいます」