携帯電話の着信で目が覚めて、顔を上げると机の上。
はっとして携帯電話を手に取ると、着信は港からだった。
「…もしもし」
「あ、悪い…寝てた?」
「ん、ううん」
電話の向こうは物音がせず、周りに人はいないようで。
「当直代わったから遅くなる。今日は帰れないかもしれない」
今日は確実に帰って来れない…
それなのに『かもしれない』を付け加えるのは、私に悪いと思ってなのだろうか…。
「わかった、大丈夫」
「夜冷えるから暖めて寝てよ?」
「…ふふ、わかってるよ」
久しぶりに聞く港の声。声を聞くだけでもどこか安心する。
そんな会話も、ほんの数十秒。
「仕事戻るね」
控えめな声の港に、なんとなく言葉が漏れた。
「今どこ…?」
「いま医局。これからご飯食べて仕事戻るんだけどね」
「…そっか」
「ん?」
何か会話を続けたくても、それ以上言葉が出てこない。
「…あ、ごめん、忙しいのに」
慌てて電話を切ろうとすれば、『ちょっと待って』と止められる。
「おやすみ」
その声を聞いて、小さな声で返事を返した後、切れた携帯電話を片手に視界がぼやけてしまった。