魅惑の純情泥棒



「鹿嶋誠太さん、そろそろ覚悟決まった?」

「…っ」

囁くように。

まるで、森の中で内緒の話をするかのように和穂は言葉を紡ぐ。


廊下より薄暗い教室。


おでこをくっつけながら、和穂は視線だけそっと上にあげた。

フレームをはみ出て視野はぼやけてる。


視界よりも一番感じるのは彼の存在感。


強くて、脆くて、澄み切って真っ直ぐな気配。


震える、彼の緊張した息遣い。


「あ…、一応言っておくけど、この間みたいに逃げないでよ?」

「あれ…は…っ」

“この間”の事に心当たりがあるのか誠太は動揺を隠せない。


「誠太の部屋に放置されたのはまあいいとして、その後まさか友達んちまで遊びに行ってるとはつゆにも思いませんから。」

「遊びにじゃねぇ!…そ、相談だ!」

和穂が珍しく不満を漏らすと、至近距離なのを忘れて誠太は慌てて弁解する。


唇が触れるか触れないかの所でトンズラこかれた前回に比べ、まぁ少しは進歩したかな?と和穂は内心ほくそ笑んだ。

「部屋から一人で出てくるの、アレはなんとも気まずかったなぁぁぁあ。あ、お母様に謝られたよ。」

大げさに嘆いて見せた後の爆弾発言に誠太は頭から煙を出しながら爆発した。

「あ…あ…あいつやっぱり見て…っっっ!!」

「こら、お母さんをあいつとか言っちゃイケマセン。」

少しおでこを浮かした後、またコツンとくっ付けて軽い頭突きをかます。

「別に私は見られても平気だけど。」

「…っこの変態が!」

「え?いやだって、花嫁さんとかフルオープンじゃん。」


「な…っ」


プシューッと音が出そうな勢いで誠太の顔が真っ赤になる。

え、どこに照れるタイミングあった?と和穂は内心首を傾げながら純情の塊みたいな自分の彼氏を改めて不思議に思った。