だって可愛かったのだ。
今思い出しても、あまりの可愛さに悶えてしまう。
誠太は確かに身長は可愛らしいが、顔がキュートかと聞かれればそうでもない。
すばしっこく動ける体は少々細いが案外たくましく、瞳も荒々しい性格を表したように鋭い。いつも何かしら睨んでいるので余計にキツく見える。
それでも、いちいち激しく照れたり、照れを隠すように暴れたり、逃亡したり、しゃがみ込んで小さくなって威嚇したりするのが、もうたまらなく可愛い。
それで時々、一生懸命羞恥心を乗り越えて、素直に思いを伝えてくれたりするのがもう叫んでしまいたくなるぐらい可愛い。もう、もう本当可愛い。
飛び付きたくなる衝動をぐっと堪えて、和穂は誠太に右手を伸ばす。
その気配を察知したのか、誠太の肩がビクッと揺れた。
和穂はしばらく考えた後、右手をスッと引っ込めて、諦めたようにクスリと笑う。
そして、誠太と向き合ったまま、気を抜くように膝をかかえて体育座りをした。
可愛いなぁ…なんて口にすると、怒るんだろうなぁ、多分。
誠太とは中学から一緒である。
その時はクラスも違うし接点もないし話した事すら無かったが顔ぐらいは知っていた。
ちょうど誠太が高校で出来たてほやほやの友人2、3人と絡んでいる時、生活指導の先生に捕まった。
誠太は比較的明るい髪をしている。両親からの遺伝で、完璧に生まれつきのものだ。
髪色で問いただされた時、周りの子もその事については知らなかったので、地毛だと睨む誠太と教師の間に立ち、半信半疑でおろおろしていた。
妙な空気が廊下に流れていた。
『すいません先生、私鹿嶋君と中学一緒何ですが、本当に彼のこの髪は地毛なんですよ。昔から…、少なくとも3年前から途切れる事なくこの色でした。綺麗ですよね。私真っ黒だから羨ましくて…、だからよく覚えてます。』
なんでだか、そう助言してしまっていた。
クラス委員に任命されたてで気持ちがハイになっていたのもあったし、
なんだか、あまりにも、彼が不器用そうだったからだ。
なんとなく、上手く障害物を切り抜けて通るのがうまかった自分と比べてしまって、不思議な気分になった。
あの時の気持ちを、どう表現すればいいのだろう。
もっとうまく立ち回ればいいのに、という気持ちと、あと、妙な羨ましさ。
自分にはない、透き通った、鋭い、清々しさみたいなものを彼から感じ取ったのだ。
“クラス委員の助言”が効いたのか、彼はあっさり解放され、…しかし、何故かそれからものすごく避けられ始めた。
妙な落胆と、「まぁ、元から関わりはないしね。」という諦めのようなポジティブさを抱え、日々、日常と勉学にいそしんでいたら、
ある日、突然彼から告白された。
思っても見なかった展開について行けず目を丸くしたのはいうまでもない。
どうやら、何故かあの出来事で気に入ってくれたらしく。
告白してくれる時に、その時の事を一生懸命に話してくれて、かなりキュンと来たのはちょうど一年程前の話だ。


