魅惑の純情泥棒


赤くなった頬と寄せられた眉間のシワと、相変わらず綺麗な髪の頭部のつむじがちょこんとしていて、あまりにも可愛くて、思わずよしよしと頭を撫でてしまった。

「やめろそれ!」

シャァ!と八重歯を光らせながら誠太が抵抗する。

弾かれた手をさすり、痛がる振りをしながら和穂は口を開いた。

わざわざ教室まで閉鎖したのだ。

いい加減、目的を成し遂げよう。

「じゃあ、改めて本題なんだけど」

心当たりがあるのか、また誠太が床の上で身構える。

それに気付かない振りをして、和穂はストンと膝を折り曲げ、一気に誠太との距離を詰めた。

「まぁ、一応聞くんだけど、どうして避けてたの?」

机と机の間に二人はすっぽり収まって、たとえ誰かが教室を覗き込んだとしてもすぐには気付かない。


「やっぱりこの間の事?」


淡い外の光が申し訳程度に流れ込む空間で、誠太は王手を今にもかけられそうになっている将棋士のようにゴクリと生唾を飲み込み、固まった。

数秒後、だんまりを決め込む自分の彼氏に、はぁぁーと和穂は大袈裟にため息をついてみせる。

「うん、やっぱりね。だと思った。付き合って次の日から一週間恥ずかしがって口聞いてくれなかった誠太さんらしい行動パターンだね。」

「…おい、その話はするな。」

「やっとのことで手を繋いだ次の日から野生の小動物みたいに手を近付けるとビクビクしてたぐらいだしね。」

「おいって!マジでもうやめろっ。後その顔もやめろ」


ニヤついてとても残念な顔をしている和穂に誠太は真顔で制止を要求した。