夕日の赤みが薄っすらと無くなり、白らじんだ壁に、太陽が沈み切った事を知る。

邪魔な陽射しが取れ、眼鏡の奥の瞳とバチリと目があった。

「!」

途端、1人で勝手に跳ねる心臓。

妙なスピードで巡り始める熱い血液。

勝手に集まる頬の熱。

いたたまれない、思い通りにちっともならない、自分の体。


「はぁ、やっと捕獲した。」

気が抜けたようにため息を漏らし、和穂は近くにあった机に手をついて体重をかけリラックス体制に入った。

天井を向き、彼女はなんとも緊張感のない顔をする。

「なん…で…、」

自分の掠れてしまった声に誠太は苛立ちを募らせた。


…なんで俺がここにくるって知ってた?


「ん?」

和穂は身内にだけ見せる裏のない無邪気な微笑みを誠太に向けて首を傾げる。

そして気が付いたように体を揺らしてイタズラっぽく形のよい唇を尖らせた。


「あぁ、ちょっと三谷君に頼んじゃった。」

「はぁ?!」

彼、演技派だし。と悪びれる事なく眼鏡女は笑う。

「ありえねぇ…。」

頭を抱えてその場にゆっくり崩れ落ち、あぐらをかいた誠太に和穂が一歩、歩み寄った。

「びっくりした?」

「…ムカついてる。」

「ごめんごめん、だって誠太が逃げるから。」

「逃げてねーし…」

「あ、今日のパンツ何色?」

「バっ…っ!カ野郎!お前のボケるタイミングいつもおかしいんだよ!」

この変態…っ、だの、愛読書が官能小説のなんちゃって優等生野郎…、だのとブツブツ張りのない罵声を浴びせながら誠太はまた俯く。

そんな誠太に和穂は困ったようにクスリと微笑みながら、更にもう一歩、近付いた。

(特に隠していたつもりもないけれど、)そんな優等生の裏側を知ってさえ、こうしてなんだかんだ言いながら側に居てくれる誠太に、和穂は改めて愛しさが募る。

この逸らされた横顔に、何度ときめかされたのだろう。