ほとんど人がはけた校舎を警戒しながら早足で進む。

階段を2段飛ばしで登りながら誠太は唇をギュッと一文字に結んだ。

…別に逃げ回ってる訳じゃない。

ただ顔を合わせにくいだけだ。

そう、それだけ…。

三階まで登りきり、端の教室を目指す。

流石に職員室のある一階と違って、三階の教室に残っている人間はチラリと見る限り誰もいない。

…奴の教室も警戒しながら目だけで覗き込む。

…いない。



……だよな。


誠太は考える。

俺と帰っていないこの4日間、あいつはどうしていたのだろう。

前みたいに1人で下校していたのだろうか。

それともあの妙に懐いている小動物みたいな女子と?

まさか…それとも…、っ

見知らぬ背の高い男子を思い浮かべ、誠太は勝手にイライラする。

いやない!あの変態に限ってそれはない!

ぶつけどころのない怒りに任せて勢いよく自教室の扉を開ける。

入った瞬間、妙な違和感に襲われたが、怒りも手伝って特に気にする事なくドカドカと自分の机まで足を踏み鳴らし、ガサガサと中を漁った。

「くそが…っ、あ。マジである…。本当に三谷め…。」

独り言まで悪態を付き、顔を上げた。

ふと気になり始めた違和感に窓を見る。

まだジワリと暑い残暑残る秋。

部屋が妙に暗いと思ったら、所々カーテンが引かれている。

風だけは涼しくなって来たので生徒が開けっ放しで帰る窓が、今は何故か全部閉まっている。

…用務員のおじさん、もしかして今日はやけに早く見回ったのか…?

疑問に首を傾げながら、誠太はクルリと振り返った。



ガチャン。



誠太はトカゲみたいにピタリと体の動きを止めた。

意外と響く鍵が閉まった音と共に、黒髪の頭部がゆっくりと持ち上がる。

サラサラと黒髪が何本か光ながら横に流れた。

カーテンの隙間から漏れる夕日に、レンズが反射してどんな瞳をしているのかこちらからは分からない。

誠太はぢわりと汗をかいた。

口が開いたまま、気まずさに変に歪む。

眉間にシワを寄せたまま、コツコツとローファーを鳴らし近付いてくる相手の出方を待った。

「誠太…。」

ゴクリ。

誠太は緊張を生唾と共に飲み込む。

ゆっくりと弱くなっていく夕日と共に、奴の顔がだんだんはっきり見えてきた。