少し明るめの髪を振り乱しながら誠太は怒る。

更にそれをポンポンと子供をあやすように撫でられるので2倍ムカつく。

ただでさえ身長で普段から人になめられているというのに。

大股で歩く癖も、背筋をいつもピンと伸ばしているのも、毎日の虚勢の結果だ。

「あー、俺もあんなおごそかで綺麗な彼女が欲しいねぇ。」

のんきに空へ呟く杉田に、誠太は複雑そうな表情で下顎を尖らせた。

「ねぇ、キスぐらいはしたんだろ?」

「杉田、そろそろ本気でしばく。」

「あー…、誠太からかってるとこ悪いんだけどさ。」

やっと三谷がスマホから顔を上げ、目を泳がせる。

一気に三人から視線をいただき、気まずそうに三谷は口を開いた。





「あーーもーーっ!」

イラただしげに誠太は靴を鳴らす。

学校へと逆走しながら何度も友人への舌打ちを放った。

『はっ?!』

『だから悪かったって。』

三谷が誠太から借りていたノートを学校に忘れたというのだ。

しかも今日中に記入し終えて明日提出しないといけないものを。


『しかもなんでわざわざ俺の机に!』

『仕方ないだろ?そもそも今日ばったり会わなけりゃお前と帰る予定なかったし、お前教室にいないし。本人がいなかったら机に入れて帰っちゃうだろ。流れ的にさ。まさかアレが明日提出なんてなぁ…。メールで今知った…。』

『マジかよ…。』

途中まで課題を仕上げてある分タチが悪い。

学校まで取りに行くのも面倒臭い…が、しかし帰って一から別のノートに記入し直すのも癪だ。

『ふざけんなよっお前取りに行けよ!』

『いや…それなんだけどさ……。』

取りに行きたいのは山々だが、どうやらこれから塾でしかもテストらしい。三谷と田中は同じ塾で、杉田は家庭の事情で今日は遅れて帰るのは無理だという。


『信じらんねーっ!ありえねぇ!!』

三谷が珍しく手を合わせながら謝った。

『悪い!明日otoのスペシャルハムエッグサンド奢るから‼︎5.6特濃牛乳も付ける‼︎』

その言葉に、誠太はピタリと吠えるのをやめた。







「くそったれが……っ」

こそこそっと誠太は柱に隠れて周りを伺う。

餌につられて忘れていたが、よくよく考えるとあれだけ苦労して校舎を脱出したというのに、なんでこんなあっさり舞い戻らなければならないのか。

全て三谷が悪い。やっぱりデザートも付けさせる。