少し明るめの髪を振り乱しながら誠太は怒る。
更にそれをポンポンと子供をあやすように撫でられるので2倍ムカつく。
ただでさえ身長で普段から人になめられているというのに。
大股で歩く癖も、背筋をいつもピンと伸ばしているのも、毎日の虚勢の結果だ。
「あー、俺もあんなおごそかで綺麗な彼女が欲しいねぇ。」
のんきに空へ呟く杉田に、誠太は複雑そうな表情で下顎を尖らせた。
「ねぇ、キスぐらいはしたんだろ?」
「杉田、そろそろ本気でしばく。」
「あー…、誠太からかってるとこ悪いんだけどさ。」
やっと三谷がスマホから顔を上げ、目を泳がせる。
一気に三人から視線をいただき、気まずそうに三谷は口を開いた。
*
「あーーもーーっ!」
イラただしげに誠太は靴を鳴らす。
学校へと逆走しながら何度も友人への舌打ちを放った。
『はっ?!』
『だから悪かったって。』
三谷が誠太から借りていたノートを学校に忘れたというのだ。
しかも今日中に記入し終えて明日提出しないといけないものを。
『しかもなんでわざわざ俺の机に!』
『仕方ないだろ?そもそも今日ばったり会わなけりゃお前と帰る予定なかったし、お前教室にいないし。本人がいなかったら机に入れて帰っちゃうだろ。流れ的にさ。まさかアレが明日提出なんてなぁ…。メールで今知った…。』
『マジかよ…。』
途中まで課題を仕上げてある分タチが悪い。
学校まで取りに行くのも面倒臭い…が、しかし帰って一から別のノートに記入し直すのも癪だ。
『ふざけんなよっお前取りに行けよ!』
『いや…それなんだけどさ……。』
取りに行きたいのは山々だが、どうやらこれから塾でしかもテストらしい。三谷と田中は同じ塾で、杉田は家庭の事情で今日は遅れて帰るのは無理だという。
『信じらんねーっ!ありえねぇ!!』
三谷が珍しく手を合わせながら謝った。
『悪い!明日otoのスペシャルハムエッグサンド奢るから‼︎5.6特濃牛乳も付ける‼︎』
その言葉に、誠太はピタリと吠えるのをやめた。
…
「くそったれが……っ」
こそこそっと誠太は柱に隠れて周りを伺う。
餌につられて忘れていたが、よくよく考えるとあれだけ苦労して校舎を脱出したというのに、なんでこんなあっさり舞い戻らなければならないのか。
全て三谷が悪い。やっぱりデザートも付けさせる。


