だって、櫂が私の頭をポンポンと撫でる度に思い出すの。

悠也の事を……


それに、思い出す度に私の心の中の悠也の存在が大きくなっていく。

櫂は私の隠している気持ちに気付いたのか気付いていないのかわからないけど、私の事を後ろからぎゅっと抱きしめた。

いつもは抱きしめられると、温かく感じる櫂の腕の中。

だけど、その日は何かが違ったんだ。


「櫂?どうしたの?」

「いやー……。奈緒を抱きしめていると落ち着くなって思って」


そう言って、櫂は私を抱きしめる腕の力を強めた。


ねぇ、櫂?

もしかして、この時にはもう気付いていたの?

私の心の中には、悠也がまだいる事を。

ううん。

私の心の中にいる悠也の存在が、大きくなっているって事を……



ごめんね、櫂。

私が櫂を不安にさせているんだよね。

櫂だけの事を見るって決めたのに……

本当に、ごめんなさい――…