「櫂の事、好きだよ」


その言葉に嘘はない。

元々、櫂の事は好きだった。

はじめは私の櫂を好きな気持ちと、櫂が私を好きな気持ちは違った。

だけど、私は櫂と一緒にいて、櫂の事を恋愛感情として好きになっていった。


「奈緒、本当？」


櫂は不安げな表情で私を見る。

私は櫂にぎゅっと抱き付き「うん」頷いた。


「ありがとう」


櫂も私の事を力強く抱きしめてくれた。


櫂はきっと気付いている。

私の中に、まだ悠也がいる事を……

でも、付き合うようになってから、櫂と一緒にいて櫂の事を知って、私は櫂の事を好きになっていった。

その気持ちも本当。

だから、櫂を不安にさせたくなかった。

櫂は自分だって辛いのに、私の気持ちを尊重してくれる。

こんなに優しい人を傷付けたくない。

だから、私は悠也への気持ちは忘れるんだ。

櫂を……

櫂の事だけを見るんだ。


私は心に、そう誓った――…