確かに、両親が帰って来るのは
大抵夜中が多い。

一人が“怖い”なんて感覚は
とっくの昔に忘れた。

だけど“淋しい”のは変わらなかった。

そう、此処に引っ越してきて
二人に会うまでは。

学校の先生だけど、
マンションに帰って来れば普通の人。

他愛もない話をしたり、
ふざけたり、他にも色々なことを
三人でしていると楽しい。

そして、やっぱり
運が悪かったらしく、
父親まで帰って来た。

「これは、どういう状況だ?」

厄日。まさに、その言葉がピッタリだ。

「あぁ、あなた
実は幸奈がお隣さんに
入ろうとしててね……」

母親が次の言葉を続ける前に
父親が怒鳴り散らした。

「何だってそんなことを‼」

煩いなぁ……

普段、世間体がどうのと
言ってるのに近所迷惑は考えないのか……?

『別に不法侵入じゃないわよ‼』

負けじと私も怒鳴った。

「じゃぁ何故、
隣に入ろうとなんてしたんだ」

『家主の彼らが私に鍵を
渡してくれてたし、
夕飯を作るために入ろうと
していたところを見つかったの。
だけど、
三人のルールがあるの❢❢』

両隣に座る二人の手を握った。

今回はあい君ん家だったけど
竜君ん家だって何度か出入りしている。

『私達は幸奈を
信用していますし、
夕飯は三人で食べるのがルールの一つです』

静かに話出したのは竜君だった。

二人は私の手を
離さないでくれている。

大丈夫だと握っている
手から伝わってくる。

「そもそも、
君達は社会人なんだろな」

今すぐに蹴りたい。

『幸奈、落ち着け』

私が腰を上げようとしたのを
あい君が気付いて止めた。

『私達の正体を知ったら
益々、怒鳴られそうですね』

言葉は深刻なのに
竜君は笑顔のままだ。

「どういうことだ」

『では、彼の分も含め、
改めて自己紹介させていただきます』

『私は幸奈の担任です。
そして、彼は我が校の保健医です』

簡潔かつ分かりやすく
自己紹介した竜君。

両親は言葉が見つからないらしい。

『ごめん、迷惑かけて』

私が謝ると、二人はこう言った。

『迷惑かけられた覚えはねぇな』

『えぇ、幸奈に
迷惑をかけられた覚えは
一度もありません』

何処までも優しい二人に
今日初めて泣いた。

『あい君、竜君……』

ギュッと抱き締めてくれた。

『ありがとう……』