〜柚羽side〜



「ゆずー!!」

ホームを走って電車に乗り込んできたのは、五十嵐楓(いがらし かえで)。

「もう!!なんで先に行っちゃうのさー!!」

「え?だって、今日バイトじゃあ…」

「今日は休み!!ちょっと先生と話したら戻ってくるから、教室で待っててって言ったじゃん!!」

「…あ。」

そんなこと、言われた気がする。

「もー!!!めっちゃ走ったじゃん!!髪の毛ボサボサー!」

もうやだーと小さく叫びながら必死に髪を梳かしている。
その髪は細くて綺麗。
全然ボサボサじゃないよ…。
それでボサボサだったら、私どうなるんだろ。

楓は、身長が低くて、細くて、でもちゃんとついてるとこにはついてて…
そんな羨ましいスタイル。
そして、なんといっても、そのルックス。
自分では『童顔だからいやー!』って言ってるけど、綺麗に薄くメイクされた顔は、お人形さんみたいに可愛い。
メイクを落としても、目がクリッとして睫毛は長くて。

ちょっとドジっ子で、でも愛されキャラで。

本当、絵に書いたような美少女。


「ゆずー?」

「あ、ごめん。ぼーっとしてた。」

「ゆずはいっつもぼーっとして!そんなんだから、彼氏も出来ないんだよ!ゆず、可愛いのに。」

「私が可愛い?ないない。」

笑って答える。
私、佐野柚羽(さの ゆずは)は、高校2年生にもなって、メイクはしたことない、初恋もまだ。
肩下まである髪は美容院にいつ行ったっけって感じでボサボサ。
そして何より、175もある身長。
そこら辺の男子は大体見下ろせる。

そんな私が可愛いはずないよ。









この日は珍しく楓が一緒で、
朝は珍しく寝坊しなくて、
授業中の居眠りもたった2回だけで。

今日はいい日だなーなんて思ってた。
まさかこの日が、私の運命の日だなんて知らずに。