楓くんは立ち上がると入り口に向かい歩き出した。
その背中に、女性は声をかける。
「また、会いたいって言ったら・・・」
「・・・もう、あなたには会いません」
振り返ることなくそう言うと、楓くんは外に出て行った。
女性は顔を覆い涙を流す。
悲しい結末。
だけど、仕方のない結末だったのかもしれない。
最初にその手を放したのはあの人の方なんだから。
「楓の結論を、僕は尊重するつもりです。なので、今後あなたに会わせることはありません」
「・・・はい」
「楓は、僕が大切に護ります。ですから、あなたは幸せになってください」
「え・・・」
「それが、楓の願いです」
社長さんがそう言うと、ハッとしたように目を見開き、女性は泣き崩れた。
女性は指輪をしていない。
今までずっと一人で生きてきたんだ。
これからは、幸せに生きてと。
楓くんの、優しさ。
優しすぎるよ、楓くん。


