楓くんは、エレベーターホールの前にあるガラス張りの部屋の中にいた。
そっと中に入り、楓くんに近寄る。



「楓くん・・・」



小さく声をかけると、俯いた顔をあげ私を見た。
傷ついた顔をしている。

胸が苦しくなって、どうしようもなくて。



私は正面から座っている楓くんの身体を抱きしめた。




「・・・っ」

「泣いても、いいよ。誰も見てないから。私も、見てない」

「・・・泣かねぇよ」

「うん。でも、少しの間、こうさせて。私が、こうしたいの」




楓くんは、弱音を吐かない。
きっと、ゆだねてくれることはないだろう。

だから。
私が楓くんに甘えるの。
私が、こうしたいからするの。


しばらくそうしていると、そっと楓くんの手が躊躇いがちに腰に回された。


少し震えた手。
ギュッと私の服を掴んだ。