「……それだけじゃないよ?」



「え…?」



「先輩はカッコイイだけじゃなくって、優しくて、野球に対しての姿勢も真剣で、だから…」



理沙の言葉が途切れた時、紺野が理沙の横顔を見る。



「本当に…好きだったんだな?先輩のこと…」



「うん…」



すると紺野が立ち上がると同時に、理沙の頭をポンっと叩いた。



「よしっ、もうひと踏ん張り行くか!」



「うん?」



そして、再び理沙は紺野の背中を追って自転車をこぐ。



部活を引退した先輩とは、この夏休み、ほとんど会うことはない。



それが唯一の救い。



私はこの夏で、先輩を忘れる。



きっと、忘れる。




……そう決めた。