それは写真立てだった。物の少ない悠馬の部屋で存在感を放っているそれを手に取る。
写真は幼い男の子と女の子が桜の下で手をつないでいるものだった。これは、おそらく悠馬だろう。隣の女の子は誰だろうか?自分と似ているように思うが、以前に悠馬と会ったことなど記憶にない。芽依子はしばらく考えてある結論にたどり着いた。


(もしかして、悠馬くんの好きな子ってこの子…?)



思い入れのありそうなもののないこの部屋で、色あせた写真を持っているなど普通ではない。きっと特別な思いがあるはずだ。
それに初めて悠馬と会ったとき、ずっと好きな人がいると言った。しかも私のことを見ながら。あれは、私が悠馬くんの好きな子と似てたから。今付き合っているのも、似てるから。


悠馬くんは、最初から私のことなんて見てくれていなかったんだ。


積もり積もった不安という火薬に火をつけられたようだった。止めどなく流れる涙。このままここにいたらまずい。とにかく家に帰ろう。


急いで家に帰り部屋に駆け込む。走ってる間も涙は止まらなかった。

どうしても信じたくない事実。好きだと言ってくれたことも、デートしたことも、キスしたことも、私としたかったんじゃなくて、好きな彼女としたかったんだ。


考えれば考えるほど悲しくて、その日は一晩中泣いていた。