教室の片隅でひっそりと読書をする髪の毛ボサボサ、友達0人の黒川百合愛。
教室の真ん中で大勢の男女に囲まれ、教室の外にはファンクラブが出待ちする学校の王子様、白河院隼斗。
この正反対の2人には共通の秘密があった…

「今日も学校きてるね、地味子」
クラスの女子が、教室の隅に座る百合愛にワザと聞こえる大きな声で言った。
女子たちは百合愛に近づくと、百合愛の広げていた雑誌に手を伸ばした。
「地味子も雑誌読むんだー」
広げられたページは国民的美少女モデルの特集だった。
「美少女モデルのユリアじゃん。地味子、あんたじゃ同じユリアでも天と地の差だねー」
ゲラゲラ笑いながら、雑誌を取り上げてゴミ箱に放り投げた。
「あ、王子おはようー」
後から教室に入ってきた王子こと白河院隼斗に興味が移ったのか、地味子いじりは一段落した。
相変わらず女子にも男子にもクールな隼斗は冷たい印象だが、そこがかっこいいらしい。ルックス良しスポーツ万能、勉強は学年上位、おまけにお金持ちらしくまさに王子そのもの。
「あんなののどこがいいんだか」
ため息まじりに百合愛は呟いた。

「ただいまー」
「おっかえりー」
百合愛は自宅に帰ると、いつも留守がちな父の声が返ってきて驚いた。
「あ、いたんだ」
「いたよー。そんなことより! 父さん再婚することにしたから!」
「…は?」
「そういうわけで、はい、新しい新居の地図」
渡されたのは超簡潔にかかれた地図だった。
「明日バイト終わったらこの地図の家に帰ってきてねー、この家引き払うから間違って帰ってこないように! あぁ荷物は明日全部移動させとくから心配しなくていいよー」
「いや、そんな急に言われても嫌なんだけど」
「大丈夫! 向こうの家族みーんないいこたちばかりだから」
「は⁉︎ なに、再婚相手って連れ子なわけ⁉︎」
「じゃ、そういうわけで、父さん出かけてくるわー」
「ち、ちょっと! 本当ありえないんだけど…」

翌日、バイトが終わって渡された地図を取り出した。歩きながら地図を見て、目的地を目指す。しばらく歩いていると、超高層マンションに出くわした。
「ここが、新しい新居…ハンパないな」
逆玉に乗った父の顔が浮かんだが、ふとよく地図を見ると、部屋番号がかかれていない。さらによく見ると、微妙に新居を示す矢印が左にずれていた。地図と一緒に左に頭を向けると、これが天と地の差と言わんばかりの一軒のボロ屋が見えた。
「まさか、ね…」
すると家から1人の小学生らしい女の子が出てきた。
「あ、あの、あなたのお母さんって千歳さんですか…」
女の子は困って、「お兄ちゃん来てー」と叫んで家に戻っていった。
「あ。今の完全に不審者扱いされたな…本当なんで苗字書かないで下の名前しか書かなかったんだろう」
しばらくして、呼ばれた兄らしき男がドアを開けた。
「あの、千歳は母ですが、母に何か用ですか?」
「あ、私、黒川百合愛で…す…?」
「まさか、地味子…」
「黒川百合愛です! って、なんで王子(笑)がこんなボロ屋に?」
「おい、お前、なんでうちが分かったんだ!」
「何でって、今日からお世話になるんだけど」
「はあ⁉︎」
そう言うと、バタバタと廊下を走って叫んでいる。しばらくすると下を向いた隼斗が紙切れを持って現れた。
「母さん、今日から仕事でお前の父さんと一緒に海外に行ってるらしい。当分帰って来ないってさ…つーか、再婚とか聞いてないし、荷物もいつの間にって感じなんだけど…」
「とりあえず、お邪魔します」
家に上がって、百合愛は気付いた。部屋や靴が想像以上に多いことに。
「なあ、黒川さんには悪いけど、元の家に戻ってくれない?」
「家ない。昨日で引き払ったし」
「じゃあ、母方に引き取ってもらうとか」
「うち母さん死んじゃっていないから」
「…分かった。とりあえず、一緒に住む条件として約束してほしいことがある。1つは学校では一緒に住んでることは秘密。それからもう1つは…」
「王子がみんなの理想のお金持ちの王子じゃなかったこと?」
「…あぁ」
「そんなに大切なことかなー…まあいっか。分かった。約束する」
「あぁ、感謝する。それで、黒川の部屋は3人部屋だから。次女麗華、三女静香、年も近いから大丈夫と思うけど」
「…1つ聞いていい?」
「なんだ?」
「何人家族なの?」
「うちは11人だけど」
「11人⁉︎」
「あぁ、ちょっと待ってろ」
隼斗はリビングに全員を集めて整列させた。
「左から、次女麗華、三女静香、四女円香、五女茉莉花、三男が俺で、四男の黎人、五男の圭人で、今は家を出てていないけど、上に長女の京香、長男の真斗、次男の悠斗がいる」
「大家族…」
それから簡単な自己紹介があり、それぞれ部屋に帰ることになった。
「百合愛お姉ちゃんって呼んでもいいですか?」
「あ、うん。えっと…」
「次女の麗華です。16歳。高校は女子校です。よろしくお願いします」
「よろしく」
「静香、改めて挨拶しな」
「三女の静香。14歳。…わたしは認めないから!あんたがわたしのお姉ちゃんだなんて! こんな暗くてダサくて、かわいくないお姉ちゃんなんか、絶対認めないから‼︎」
「ちょっと、静香‼︎」
静香はそう言うと部屋を飛び出していった。