『藤崎は、まだプロでも何でもなく。
小説家の夢を追いかけながら
必死にバイトを掛け持ちして頑張っていた。
たまたまその日もバイトで帰りが遅くなって
彼女の異変に気づけなかった。
俺も呼ばれてて部屋の前まで行くと
異常なほど声を出して睦月が泣いててさ。
近所の人も不思議がっていた。』

『ほら、睦月…普段泣かないじゃん?』

浜野さんの言葉にハッとする。
確かに…。

赤ちゃんの頃もあまり泣かない睦月君が
異常に声を出して泣くって事は…まさか…もう?

『悪い予感がして慌てて部屋をこじ開けた。
そうしたら……沙織ちゃんが倒れていたんだ。
すぐに救急車を呼んだけど…すでに心臓が停止していた。
後で聞いた後だとお金がかかるからと
病院の通院を黙って行かなかったらしい。
それに育児や無理が祟って…亡くなった』

「そんな……じゃあ、奥さんは…」

『アイツが駆けつけた時には、
もう……あれからアイツ酷く落ち込んでさ。
自分を責め続けた。
親の反対を押しきって駆け落ちしたくせに
彼女を死なせた自分。
彼女の異変に気づかずにバイトに行っていた自分。
そして夢を追いかけたせいで
医者にろくに行かせてあげられなかった自分に』

違う……。

「そんなの先生のせいではないですよ!?
もともと心臓が弱かったのだし
仕方がないじゃないですか!?」

『……そうだな。俺もそう思う。
しかも不運にも……沙織ちゃんが
死んだ後なんだよな。
アイツが書いた小説が有名なコンテストで
新人賞を取ったの。
アイツは、あれ以来……がむしゃらに
小説を書き続けた。
するとあっという間にベストセラー作家だぞ?
笑っちゃうよな』

知らなかった……先生の過去にもう1つ
悲しい過去があったなんて。

私は、言葉を失った。

『まぁ、アイツには……睦月が支えになっていた。
睦月さ……赤ん坊ながら絶妙に
空気が読むの上手くてさ。
でも、未だに彼女を死なせた原因は、
自分だと思っていて……。
誕生日が大嫌いになっていてさ。
誕生日の話をされるのを酷く嫌う。
そりゃあさー沙織ちゃんの命日に誕生日を
祝われても嬉しくない気持ちは、分かるけどさ~』