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結局、一時間後にはグツグツと煮立つ鍋を
わたしと兄、ルーカスさんと初対面の女性の四人で囲むという
なんとも奇妙な構図ができあがった。
兄のぶんをよそおうとしたとき
それまで黙ってこちらの様子を見ていた彼女から
「私にやらせてください」と柔らかく微笑まれた。
「拓哉(たくや)さん、たまにはエノキも食べてくださいね」
拓哉は兄の名前だ。
親しみをこめたように、そう呼ぶのは
お父さんとお母さん、あるいは彼と
とても距離の近い人ぐらいしか知らない。
ぼうっとしながら見ていると、ふっと彼女と目があった。
あわてて逸らそうとすると
「麻友子さんのぶんも、よかったら」と言われたので
「あ、いえ…わたしは自分で大丈夫です」
ありがとうございます。と小さく頭をさげると
兄が手をのばしてきて「こいつ人見知りだからさ」と
わたしの頭を、わしゃわしゃと雑に撫でた。
