どうしてはっきり言ってくれないのだろう。
彼女がいるので、と
そう牽制してくれさえすれば
たちまち、わたし自身なにもできなくなるのに。
一緒に食事をしたり
お見舞いにきてくれたり
優しくしてくれさえしなければ
もしかして、と彼の気持ちに期待したり
あんな行動をとることもなかった、のに。
――だけど…、
(ほんとうに いちばんずるいのは、わたし)
知っていて、近づいて
ごめんなさい。
黄色い線の内側まで下がっていれば
きっと、ずっと平穏でいれたのに。
嗚咽が連続して漏れて吐きそうになった。
しゃがみ込んだら、その拍子に爪先がコツンとリップクリームに触れて
コロコロとベッドの奥に転がっていくのが見えた。
(困らせて、ごめんなさい…)
この感情を、どこへ持っていけば良いのかが分からなくて
その夜は、ひたすらに泣くことしかできなかった。
さいあくの、誕生日だった。