「どうして…」
「すみません、三澤さんはデサキのあと、こちらへ直接向かう予定だったのですが
少しだけ仕事が長引いているんです」
デサキ、というのが出先を指しているのだと
わかるのに、数秒だけ時間を要した。
ルーカスさんの話によれば
兄は取引先の会社に出かけたあと、レストランに来るはずが
商談の途中で話が盛り上がってしまい
未だ、先方から中々帰してもらえそうにないらしい。
話の途中、トイレに行くふりをして
代わりに行ってほしいとルーカスさんの携帯に連絡があったそうだ。
「…なるほど」
運ばれてきた前菜の説明を受けたあと
冷やされたパンプキンスープを深めのスプーンで掬いながら、わたしは頷いた。
兄は誰に対しても積極的な姿勢で話をふるので
相手の感情を引き出すのに昔から長けていた。
コミュニケーションが苦手で特有の友達しか作らない
わたしとは、まるで正反対だ。