「はい、これで大丈夫です」

櫛で丁寧に髪の毛をとかれたあと、鏡越しのルーカスさんが
にっこりと微笑んだ。

「ありがとうございます…」

未だに首筋の熱はおさまらなくて
なんだかわたしまで片言の日本語になってしまいそうな気がした。

するりと離れていく指先に、ほっと肩の力が抜けて
それ以上に淋しい気持ちに濡れていると
ピンポーンと部屋の中にチャイムの音が落ちてきた。

「すみません、すこし待っていてください」

「あ、はい」

パタン、と扉が閉じられて
ひとりになった部屋は、しん…と沈黙に包まれてしまった。

ようやく心臓も静かになって、
きょろりと視線を彷徨わせる余裕が生まれると、小さな棚の上に置かれた写真立てが見えた。


思わず、立ち上がって覗き込むように見てしまう。

(ルーカスさんと…、)

柔らかく微笑むルーカスさんと
隣に居る、その人に

さきほどまで、ドキドキと鳴っていた心臓が
ひんやりと冷えていくのが、わかる。

(いもうと…さん、じゃない)

だって、


写真の中に映っている、その人は…