恋とは停電した世界のようです



諦めて、受け取った三千円を自分の財布にしまい
ロビーで入館証を返していると
後ろから、そっと名前を呼ばれたような気がした。

その遠慮がちな口調や、少し独特なイントネーションは
まさにニ週間前に聞いた時と同じもので
胸の端をキュッと摘ままれたような感覚に、なる。

混雑するロビーの中で、彼の姿だけが切り取られたように映った。


「こんにちは、ルーカスさん」

「どうしてこちらに…?」

「兄の書類を届けに来たんです。今朝とても慌てて出て行ったから、置いてっちゃったみたいで」

そう説明すると、「なるほど」と頷いて

「三澤さんには、もう会われましたか?」

「はい。なので、もう帰ろうかと…」

「そう…ですか」

すこし考えるように彼の唇が閉ざされて
そのあと、なにか思いついたように彼の瞳が、ふっと淡く揺れた。

「あの、よければこのあとお時間ありますか…?」

「…へっ?」

予想もしていなかった質問に戸惑っていると
じっ、とこちらを見詰めてくるルーカスさんと
はっきり目があって、自然と逸らせなくなってしまった。