『え?』

卓也は言葉を失った。思いがけない返答に言葉が見つからない。さっきまで明るく照らされていた景色が一瞬にして闇夜に包まれた。全てがモノクロでスローモーションのように流れる。

『じゃあ…帰るね。』

久美はスッと立ち上がり、卓也の視界から消えるように歩いて行った。卓也は真っ直ぐ女郎花を見つめたまま視線を動かさなかった。左方向にボンヤリ久美の後ろ姿が感じられたが、小刻みに揺れる肩の動きまでは見えなかった。

久美は公園を出て右折すると、近くの脇道に入った。そして、工場と工場に挟まれた袋小路で立ち止まり、しゃがみ込んだ。

そして、声を出して泣いた。

『これで良い…これで良いの。私は汚れちゃったから…。』

久美は自分に言い聞かせるように何度も何度もそう言って泣き続けた。涙で視界が歪み、そこが卓也と出会った場所とも気づかずに泣き続けた。