沙也加がコーヒーを入れる。テーブルにコーヒーが並んだ頃、男の意識が戻った。

『うぅ…』

男は完全に戦意喪失していた。その表情は、怯えていて、まるで蛇に睨まれたカエルだった。

『あんた誰?』

沙也加が男に言った。沙也加は加川と会っていたので、この男が加川でない事を知っていた。

『敦のツレです。』

『敦?』

『あ、加川敦です。』

『加川はどこ?』

『………』

男は言葉に詰まる。他の女の所に行ったとは言えなかった。

『すぐ呼んで!』

沙也加が携帯を指差して言った。

『はい。』

男は震える手で携帯を手に取り、加川に戻って来るように伝えた。電話越しに手間取っているように見えたが、男も必死だった。卓也のプレッシャーに押し潰されそうだったのだ。

『10分くらいで戻るとの事です。』

『わかった。じゃあ帰っていいよ。』

『あ、はい。』

男はフラフラしながら部屋を出て行った。