久美は2人の姿に、安堵の表情を浮かべ、『うわー』と声を出して泣いた。沙也加が優しく抱きしめる。

『よしよし、大丈夫だよ。良く頑張ったね。』

沙也加が久美の頭をポンポンと撫でた。その数秒後、ドカドカドカと荒々しい足音が玄関に近づく。そして、ドアが開いた。

『おい!久美…』

男はギョッとした表情を浮かべた後、すぐさま険しい表情に変わる。

『あぁーん?なんだお前ら!!』

男は加川同様、茶髪にピアスを開けた半グレだった。勢いづく男に卓也が近づく。卓也は左手で男の髪の毛を掴むと強引に廊下へと引っ張り出した。そして、地面から天井に向かって、物凄い勢いでボディーブローを喰らわせた。男の体が一瞬、宙に浮いたように見えた。

『オェ〜!』

男は堪らず、膝をついて今日食べた物を全て吐き出した。それでも卓也の手は止まらない。すぐさま立ち上がらせ、左手で頭を掴んだまま、今度は固く握り締めた右拳を顔面にめり込ませた。男は吹き飛んだ。ブチブチブチーっと髪の毛が抜ける。

《こ、殺す気だ…》

沙也加はガクガクと足を震わせた。卓也は転がった男の足を担ぎ上げ、廊下のフェンスに掛けた。そして、体を持ち上げ突き落とそうとした。

『ダメだよ!』

久美が卓也の背中に抱きついた。卓也の表情に色が戻る。卓也は男から手を離した。ゴロンと再び地面に転がった。そうこうしている内に、ご近所がザワザワとし始めた。ひとまず男を連れて久美の部屋に入った。