時刻は22時を回ろうとしていた。2人は急いで久美のマンションに向かう。久美のマンションは駅から歩いて五分の所にある。走れば二分も掛からなかった。久美のマンションを遠目に見つめる。沙也加がベランダに目を向け、人差し指で階を数える。

『明りが点いてる!いるはずだよ。急ごう。』


沙也加が言った。卓也は黙って頷いた。

マンションの玄関に入り、立ち止まる。目の前にはオートロックに護られたドアがある。沙也加はインターホンを押すのを躊躇った。もし、加川が居たら開けない可能性があったからだ。卓也は少し考えてから沙也加に尋ねた。

『部屋番号は?』

『302』

卓也は適当に部屋番号を押した。インターホン越しにおじさんの声が返ってくる。

『はい。』

『宅急便でーす!』

卓也は軽快な声で言った。数秒後、オートロックのドアが開いた。卓也はペロッと舌を出して笑った。

『今日は許す!』

沙也加も笑って、卓也の後に続いた。