『ただいまー!誰か来てるの?』

玄関から男の声がした。久美の表情が強張るのを沙也加は見逃さなかった。《こいつだ》沙也加に怒りが湧き上がる。

『誰?久美の友達?』

リビングに現れたのは、見るからにチャラチャラした男だった。そう加川だ。髪は金髪に染めて、耳と鼻にピアス。胸元には高そうなネックレスをしていた。

『地元の友達の沙也加。』

久美が言う。

『へ〜、可愛いじゃん。彼氏いるの?』

加川は沙也加に近づいて、顎を指で触れた。

『ちょっと、やめて下さい。』

沙也加は手を振りほどいた。そして、加川に向かって続けて言った。

『久美に近づかないで!』

『はぁ?なんで彼女に近づいたらダメなんだよ』

『ふざけないで!久美があんた見たいな男に惚れる訳ない!』


『ひっでー。』

少し加川の表情が変わる。その時だった。

『ごめん。沙也加。もうそろそろ帰ってもらって良いかな。』

『え?』

久美は、加川が沙也加にも暴力を振るう。その確信があった。それだけは避けたかったのだ。久美は沙也加の荷物を手に持って、沙也加を玄関へと連れて行った。

『ちょ…久美!』

『ごめん。』

『こんなのおかしいって!』

沙也加が何を言っても、久美は『ごめん』しか言わなかった。そして、玄関から沙也加を出した。そのドアが閉まる瞬間に目が合った。

『卓也には言わないで…』