その後、卓也は園長の歩美に呼び出された。

きっと褒められる。卓也はそう思って職員室へと早足で向かった。入るやいなや歩美は凄まじい形相で卓也を睨みつけた。

『えっ』

卓也は言葉を失う。すぐに振り返って職員室を飛び出したい気分だった。

『立花さんの件です。』

歩美が冷静なトーンで言う。職員室が凍りつきそうだった。

『はい。』

『もし、最悪なケースになった時の対処法を答えなさい。』

『えっ』

卓也は再度、言葉を失った。最悪なケースなど考えてもいなかった。卓也は頭をフル回転させて最悪なケースを想像した。

立花さんが園を辞める…

陸の育児を放棄する…

生きる希望を無くす…

最悪なケースは泉のように湧いてきた。それに対する対処法が一つも見当たらない。卓也は肩を落とし地面を見つめる。

『貴方がしたことは、諸刃の剣です。今後、軽はずみな行動、言動は謹んで下さい。これが保育士の現実です。』




『…はい。』

卓也は肩を落としトボトボと職員室を出て行く。
その時だった。


『ありがとう。良く頑張ったね。』


卓也の背中を優しさが包み込む。卓也は慌てて振り向いた。そこには優しい笑みを浮かべる歩美の姿があった。

『これは、私の独り言。お疲れ様。』

天使のような笑顔だった。

卓也の脳裏に《久美》の笑顔が浮かび上がった。