「別にからかってなんかいないよ。ホントの事だもの」

「マジか?ソレが本当なら、エラい事だぞ……」


どうして一輝がこんなに動揺してるのか分からない。


「なんで?」

「お前、ジャン・クリストフ知らないとか言うなよ?」

「えっ……知らない……けど」


少しの沈黙の後、私の頭をパコンと叩いた一輝が凄い早口で話し出す。


「いいか?ジャン・クリストフは、19世紀に活躍した"近代絵画の星"と呼ばれたフランスの印象派の画家だ。彼の作品は数が少なくて、めったに市場には出てこない。

それが先月、珍しくオークションに出品されて300億円で落札されたって話題になってたろ?知らないのか?」


一枚の絵が、さ……300億円?ジャン・クリストフって、そんな凄い画家だったの?


「ったく……ニュースくらい観ろよな。で、その落札した資産家ってのが、現存してるジャン・クリストフの絵を全て所有した事に気をよくして、海外の数か所で展覧会をするって発表してたが……日本にも来る事になったんだな」

「ふーん……一輝ったら、やたら詳しいね」


すっかり感心して頷く私に、彼は更に熱く語る。


「全ての絵の金額を足せば、おそらく数千億。そうなると、ソレに掛けられる保険も莫大な金額になる……国家補償を差し引いても、日本支社始まって以来の大口の契約になるかもしれないな」

「へっ?莫大な金額?」

「ホタル、この契約、死んでも落とすな!」