「そんなに知りたいのなら教えてあげる。それはね、一輝、アンタとは正反対の人だからだよ」
「どういう事だ?」
「まだ分かんないの?一輝と違って、雅人さんは優しい人。結婚したら、きっと家庭を大事にしてくれる。だから好きになったの」
10年前の事が思い出されつい声を荒げてしまった。そんな私を、一輝はただジッと見つめるだけ。
「それに、雅人さんは仕事も一生懸命頑張ってるし、一輝みたいに定時に帰る事なんてめったに無いんだから」
黙って私の話しを聞いていた一輝が、なぜかフッと笑い再び箸を持つ。
「お前、なんか勘違いしてないか?残業すりゃあいいってもんじゃない。一生懸命仕事しても契約が取れなかったら評価はされないんだ。そんな事も分からず営業の仕事してんのか?」
「な、バカにしないで!そんなの分かってるわよ」
「なら、ホタルはどうなんだ?直帰したんだから、それなりの成果はあったんだろうな?」
里芋の煮っころがしを頬張り、薄ら笑いを浮かべる一輝が憎らしくて堪らない。
「当たり前でしょ!明日アポ取れたし」
「ほーっ、アポが取れたなら契約だな。それで、保険の内容は?」
言う事がいちいちムカつく。コイツ、私がホントに仕事してたか疑ってるんだ。
「運送業者貨物賠償責任保険だよ。海外から絵画の輸送するそうだから」
「って事は運送会社か……海外からなら、そこそこ名の知れた画家の絵なんだろうな。なんて画家だ?」
「えっと……確か、ジャン・クリストフって言ったかな……」
画家の名前を口にとたん一輝の箸から里芋が滑り落ちた。
「お前……俺をからかってんのか?」