缶ビールを3本買いコンビニを出ようとしてた時、後ろから「蛍子ちゃん」と声を掛けられた。
「あ、先生」
その声の主は、診療所の先生。いい年こいて、一輝に無修正をねだっていたスケベジジィだ。もう既に酔ってるのか、赤い顔をしてご機嫌な様子。
「それで、お父さんの調子はどう?元気にしとるか?」
「うん、ボチボチね。前よりは良くなってると思う」
私と先生はコンビニを出て並んで歩き出す。
「そうか~リハビリは何より根気が必要じゃからな。で、一輝はどうしてる?この前、アイツのマンションに往診に行った時、また新しい無修正を貸してくれるって言ってたのに連絡がなくてな~」
まだそんな事言ってるのかと呆れてると、先生が妙な事を言い出した。
「でも、一輝のやつ、あんなに金に困ってるとは思わんかったよ~」
「えっ?何いってんの?一輝はお金持ちだよ」
先生の言葉を否定するが、年寄りは頑固だ。そんな事はないと言い張る。
「なんでそう思うの?」
「だってな、一輝のマンションに行った時、玄関に弁当がひっくり返っておかずが散乱してたじゃろ?一輝はそれを拾い集め凄く切なそうな目をしてワシに聞いたんだ。『じいさん、これって、食えるかな?』って」
「えっ?そんな事言ったの?」
「そう、免疫力が落ちてる時にそんなモン食ったら腹壊すぞって言ったら、渋々諦めていたよ。
でもなぁ~玄関に落ちたモノを食わなきゃいけないほど生活が苦しいのかって思ったら可哀想になってな、無修正の借り賃として、帰る時にこっそり玄関に1万円置いてきたんだ」