初対面の私に涙を見せ、そんな事言うなんて……なんだか凄く嫌な予感がしてきた。


ここに来たのは間違いだったんじゃないかと後悔し始めた私に、暗い表情のお母さんが小さな声で話し出す。


「桐谷さんから大まかな話しは聞いてもらってると思いますが、私達の息子の司は、とても明るい子だったんです。でも、2年前、お恥ずかしい話しですが婚約者に逃げられまして……

それ以来、自室にこもったまま出て来なくなりました。あの子は結婚して10年目にやっと生まれた子供でして、私達夫婦はもう70代。このまま私達が年を取って亡くなってしまったら、あの子がどうなるか心配で……

主人もそろそろ引退を考える年齢ですし、一刻も早くあの子に元気になってもらって会社を任せたい。どうか、司を宜しくお願いします」

「は、はぁ……」


息子をなんとかしたいという気持ちは十分に伝わってきたけど、まだ会ってもないのに、宜しくと言われても困る。


「あの、それで、司さんは私が今日、こちらにお伺いする事はご存知なのでしょうか?」


両親が頑張っても、本人にその気がなかったら話にならない。


「えぇ、ご安心下さい。話しはしてあります」


お母さんは笑顔でそう言うが、実に疑わしい。安心なんかしたらエラい目に合いそうな気がする。


「では、司の部屋へ案内しますので……」


えっ?ここに彼を呼ぶんじゃなくて、私が彼の部屋へ行くの?