今回のお見合いは、一輝を忘れるいいきっかけになるかもしれない。変な人だったら断ればいいんだし、まずは第一歩を踏み出さなきゃ何も始まらない。


それに私が結婚すれば、ママが戻って来てくれる。これは私ひとりの問題じゃないんだ。父親の為にもいい事なんだ。そして、私を散々バカにしたあの玲美にも胸を張って堂々と会える。


「でも、こっちの都合ばかり言っても、向こうが私をどう思うか……だよね」


引きこもる程の辛い失恋を経験した人だもん。そんなに簡単に心を開いてくれるとは思えない。


でも楓ちゃんは、私の心配をよそに塩ちゃんこ鍋を突っつき余裕の表情だ。


「大丈夫ですよ~向こうの条件は明るい人なんでしょ?で、ブスでもデブでもOKときてる。それなら蛍子先輩は間違いなく合格ですよ。普段から無駄に明るいし、それなりに綺麗だし、何よりデブじゃない」


なんか、褒められてる様には聞こえないんだけど……でも、バツ1でもいいなんて言ってくれる親御さんはめったに居ないよね。


今年で30歳になる私が贅沢なんて言ってられない。


「……分かった。試しに会ってみる」


決心した私は、居酒屋を出るとすぐに桐谷さんに電話して自分の気持ちを伝えた。


これでいい……これでいいんだ。そう自分に言い聞かせ、潤んだ瞳で夜空を見上げる。


一輝の為に流す涙はこれが最後。もう後ろは振り返らない。そう覚悟を決め、異国の地に居る愛しい人に別れを告げた。


「さよなら……一輝。私、一輝を忘れるよ……」