「ねぇ、どうして父さんが怒ったか……分かってるの?」

「分かってるさ。ここに来る前に親父さんに電話して、本社に戻る事になったって話したら、激怒して縁を切るって言われたよ。それが理由だろ?俺がホタルをアメリカに連れて行くと思ったんだろうな。

そのすぐ後にママから電話があって、俺とホタルの結婚の事で親父さんと喧嘩して家を出たが、気にするなって……」


一輝は何も分かってない。父親が怒った理由も、ママが家を出て行った理由も……


本当の事を言うべきか迷った。私達が全て知っていると分かったら一輝はどうするだろう。そして、アクセスも一輝の裏切りに気付いてると知ったら……


このまま彼を本社に行かせたら、一輝は間違いなく解雇され、最悪訴えられるかもしれない。皆を裏切った一輝の行為は許せないけど、彼の惨めな姿なんて……見たくない。


どんなに酷い人だったとしても、一輝を守りたい。そう思ったんだ。だって、私はまだ、一輝を……


「一輝……本社には、行かないで……」

「はぁ?」

「本社に行っちゃダメ!絶対に……ダメ」


一輝のコートを掴み、泣きじゃくりながら叫んでいた。


一輝が選んだのが新田係長で、私の事なんて好きじゃなくても、私は一輝が好き。だから彼が不幸になるのはイヤ。


「ホタル……」


こんな優しい声で名前を呼ばれたのは、いつ以来だろう……そう思った時、私は彼の胸の中に居た。懐かしい一輝の香りと逞しい腕が私を包む。


あぁ……一輝……