「なんだ……これは?」
封筒の中身を確認した父親が怪訝な表情でそう聞くと、一輝が真顔で深々と頭を下げた。
「親父さんの通院費用にでもしてくれ」
「……一輝、お前……ワシをバカにしてるのか?」
テーブルに手を付き必死で立ち上がった父親が、一輝に向かってその白い封筒を投げ付ける。けど、それは一輝には届かず、床に落ちただけ。
そして、封筒の中から飛び出したのは、銀行の帯封が付いた一万円札の束が3つ。
「金でなんでも解決出来ると思うな!一輝がこんな性根の腐った男になっちまったなんて……」
父親の目に光るモノを見た私は、堪らず一輝の体をドアの方に押し戻す。
「帰って!もう、ここには来ないで!」
夢中で一輝を玄関に引っ張って行き、外へと追いやる。
「父さんの性格知ってるでしょ?あんなお金持って来て喜ぶワケないのに……何考えてんのよ?」
すると、興奮して怒鳴る私の手首を掴み、一輝が冷静な顔で言う。
「親父さんが惣菜屋を再開するまでの取り合えずの生活費だ」
「生活費なんて、私の給料でなんとかするわよ。そんな事より、一輝は自分の心配したらどうなの?」
「自分の心配?」
不思議そうな顔をする一輝を見て、まさかと思った。
もしかして、アクセスに全てバレいてるって事、一輝はまだ知らないの?
「……本社に転勤する理由……聞いた?」
探る様に聞いてみるが、彼は動揺する事なく「社長から戻って来てくれって連絡があったんだ」なんて言ってる。
じゃあ、父さんが怒った理由も知らないとか?