「まぁ、いいじゃないか!また蛍子とふたりの生活に戻ったって事だ。全て元通りだよ」
そんな事言って豪快に笑う父親だけど、本心は寂しいに決まってる。やっと、20年の恋を実らせママと結婚出来る事になったのに……父さん達に関係のない理由で、また別れてしまうなんて……
一輝さえ会社を裏切らなかったら、こんな事にはならなかったのに。
「大丈夫だよ。きっとその内、ママ戻って来るから……」
「……だと、いいがな」
父親の笑顔は苦笑に変わり、小さなため息を付くとカップラーメンの麺を力無くすする。
そんな寂しげな父親を遣る瀬無い思いで見つめていたら、玄関のチャイムが鳴り、ドアが開く音がした。
「あっ!ママかもしれないよ」
私は弾かれる様に顔を上げ、玄関に向かって走り出す。でも、そこに居たのはママではなく……
「うそ……一輝」
「よう、親父さん居るか?」
少し疲れた表情の一輝が気だるそうに歩いて来る。私は横を通り過ぎようとした一輝の腕を掴み「何しに来たの?」と怒鳴った。
「一輝のせいで……アンタのせいで……父さんはママと……」
一輝は私が言い終わらない内に「分かってる」そう言って居間のドアを開け中に入って行く。慌てて居間に戻ると、父さんの顔が強張り、一輝を睨み付けている。
「一輝、あんな事しといて、よくウチの敷居が跨げたな。お前とはもう縁を切ると言ったはずだ。出て行け!」
凄い剣幕で怒鳴られても一輝は怯む事なく父親に近づいて行く。そして、徐(おもむろ)にテーブルの上に白い封筒を置いた。